メ コ ン の 流 れ と と も に    15
パクセーからサワンナケートへ
ラオス 5   1月30日 (月)
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1.パクセー南バスターミナルはでこぼこの荒地だった

今日は移動日なので7時前に起きた。8時40分頃にチェックアウトする。相変わらずの赤シャツ青年、携帯でずっと話ばかりして客にはあまり興味がない。フロントの仕事も適当に済ませてしまう。
道路に出た途端、すぐ横にトゥクトゥクが止まった。ヘルメットをすっぽり被ったおじさんだ。ちょうどいい、北方面のバスターミナルを聞いてみた。すると、ガイドブックに載っていた、あの片側通行の橋じゃないと言う。実は、昨日も宿の赤シャツに聞いてみたのだが、やはりセーンチャルーンVIPターミナルからだと言った。昨日降りたあの場所なのか。
よくは分からないけど、おじさんの言っているターミナルへ行く事に決め値段交渉した。

走り出したトゥクトゥクは、前に遮るものが何もなくちょっと恐いが、朝のひんやりとした風を切って、とても気持ちがいい。歩いた時と違う目線の高さ、そしてこのスピード感は同じ景色でもかなり違って映る。おじさんはエンジンをまくし立てて全速で走る。何とダンプカーまで抜いてしまった。そこまでしなくても、そんなに急がなくてもいいのだが。
昨日のバスターミナルはもうとっくに過ぎた筈だけど、どこまで行くのだろう。どんどん山の中へと入っているようだ。そしてガソリンスタンドのある三差路で右にハンドルを切った。そこから少し先の道路脇には、青いビニールシートを張ったスイカの露店が見えた。山盛りに積まれたスイカがずらりと並ぶ。それもここから先、何カ所もこんな露店が続いていたのだ。この時期にこんなものがどこで採れるのだろう。

そして今度は急に左折し、赤土がぬかるんでいるデコボコの広場へ入った。周りには粗末なテントをいっぱい張りつめた市場があった。今まで見てきた中で最も素朴な市場に感じられた。私は興味津津だ。よし、じっくり見てみよう、と思ったのだが。

トゥクトゥクはすぐ前に停まっているバスへ横づけし、おじさんが指さしてこれだと言った。係の人に「サワンナケート?」と聞けば、「このバスだから乗るように」、と言われた。トゥクトゥクを降りると、すでに私の荷物はバスの荷物室に積まれていた。

何とも忙しい、これじゃ市場を見て回る暇がない。バスに乗ると、切符切りがやってきて「フォーティー」、と言った。9時過ぎに着いたのだが、早々とバスは9時10分に発車した。ローカルなバスだからそう頻繁にはないのだろう、だからおじさんは猛スピードで走ったのだ。

バスが動き出し、改めて車窓から辺りを眺めて見た。だだっ広い荒地のような場所だけれど、ソンテウやバスがいっぱい止まっている。ここが南方面への拠点となるバスターミナルだと分かる。市場にはいろんな物が売られていた。

このベストタイミングの感激がまだ覚めていないと言うのに、バスはセーンチャルーンVIPターミナルにも停車したのだ。何と赤シャツの言っていた通りとなった。しかも一向に動き出そうとしないのだ。何十分止まっているのだろう。緑屋根の所で切符を買った客が次々と乗り込んでくる。このターミナルで待っていても良かったのだ、と分かった。
そして何と、すぐ隣にあるキヤンカイVIPターミナルにも止まるではないか。こんな所なら歩いてでも来られた。このローカルな路線バスは、その後も次々と停車を繰り返しながら進んで行った。


2.車内はガイヤーン(鶏肉の炙り焼き)を売る人で大混雑

20分位走っただろうか、バスは広場のあるバス停へ入った。ここには売店らしきものもある。。乗客が乗り降りした後、ビニール袋を両手に提げたおじさんが乗り込んで来た。何やら車内販売を始めたようだ。ちらっと見るとスナック菓子があった。時間調整なのかバスの方もしばらく動かない。
このバス、スピードは40km位で走る。路面があまり良くない所も多いし、特に橋の前後は必ずスピードを落とす。バイクが走っていたり、歩いている人もいる。あまり速くは走れない。今は乾期のようで、低湿地以外は赤茶けた土のまま放置されている。

また何十分か走って、道端のバス停に止まった。
突然、車内が騒がしくなった。長い串に刺した焼き鳥が見えた。何とその串をいっぱい持ったおばさん達が大勢乗り込んできたのだ。
そして、ご飯やら弁当やら、他にもいろんな物を売りに来る。子供も熱心に何かを売り歩いている。狭い車内は大混雑だ。外を見ると煙を上げてどんどん鶏を焼いている。美味しそうなのだが、これ1本はとても食べられない。私が水のボトルを買っていると、やって来た男の子が、膝の上に袋入りのご飯を置いた。そして、お願い!といった顔で見つめる。仕方なくそのご飯も買った。他にも湯がいたトウモロコシやドーナツみたいな串も売っていた。
バスはここでも15分程止まってしまった。こんな事をやっていて、果たして今日中に目的地へ着けるのかと心配になる。
ご飯を食べてみた。もち米で、しっかり固く炊きあげられている。よく噛んで食べると実に美味しい。おかずなしのご飯だけだ。もみ殻が付いたのも混じっていて素朴な感じだ。石でも入っていないか注意したけれどそれは無かった。
隣に座っている地元民のおじさんは、バスから降りて弁当を買ってきていた。たまご焼きが載った弁当を美味しそうに食べている。

バスは出発し再び田舎道をゆっくりと進んで行った。
道の両側にはゴミがいっぱい散らかっている。道路は雨水対策のためか、周りの土地より少し高く造られているようだ。小さな村にも所々にゲストハウスの看板が見えた。
そして再び、村のバス停で・・・焼き鳥の串を持った人達が乗り込んできた。でも、もう先ほどのような盛り上がりはない。そしてまたしばらくバスは動かない。

突然バスが雑木林の前に止まった。バス停でもなさそうだ。赤いシャツを着た女性が降りて行った。ずっと目で追っていると草むらに消えた。と同時に大勢の人が一斉に降り、繁みを目指し方々に散って行った。白人の女性も降りた。この事態をすぐには理解できなかった。それでも、ホッとした顔つきで帰って来るのを見て、やっとトイレ休憩だった事に気がついた。何とものどかで大らかな世界だ。次のバスの人達は下をよく見て濡れてない場所を探さないといけない。


3.見つからないサワンナケートのバスターミナル

バスが大通りの端に止まり、「サワンナケートだから降りるように」、と車掌が言った。町に入ってはいるようだが、辺りは何もない。「ここ?」と確認すると、ただ頷くだけだ。隣の座席にいる男の子もここだと言う。
結局、辺りに建物もないこんな場所に降ろされてしまった。
ソンテウが2台止まっていて、何やら客の荷物を受け取ってるようだ。一緒に降りた人は迎えの車でどっかへ消えてしまった。
この場所がどの辺りなのか、さっぱり分からない。はたしてバスターミナルはどこにあるのだろう。ガイドブックの地図も全く機能しない。現在地が分からないからだ。目印となるようなものも何も見当たらなかった。

北の方だと思い歩き出した。途中の店で聞いてみたが、バスターミナルの言葉さえ理解してくれない。日差しが強くて暑い。せっせと歩き続けるとラオ・バンクがあった。ここならと守衛のおじさんに聞いてみた。すると反対方向、南を指すのだ。半信半疑だったが、結局引き返す事にした。
今度はポリスらしき人が2人いたので聞いてみると、やはり南に行き、あの角を左だと言った。段々と具体的になる。しかし左は変だ、どう考えても街は右側だ。言われた場所まで辿り着くと、何もなく気配すらなかった。
近くの食堂にはおじさんばかりが5人で賭け事をして遊んでいた。そのおじさんにも聞いてみた。すると更に具体的に教えてくれた。やはり大通りを右に入って、右側にあると言う。それだとバスを降ろされた場所から、少し北へ行った左側になる。

教えられた場所にあった。入り口が2カ所。何を警戒しているのか、ロープが張られていた。三方を建物に囲まれた広場の真ん中にバス乗り場があった。思ったより小さくバスの出入りも殆どないようだ。片面には食堂らしき間口の狭い店がずらりと並んでいる。
柱だけの待合所の前に出札所があった。時刻表を見ると、フエ・ダナンへは毎日22時にラオ・バスが運行している。タイへはMukdahan行きが12便もある。地図を見ると、タイの国境は目と鼻の先程の距離だ。
早速窓口で、今日の切符は今買えるか訊ねると、大丈夫と言ってくれた。パスポートと90,000キープを渡す。今日の便がダメならここに泊まろうと思っていたがホッとした。

切符が手に入ると急にお腹が空いてきた。構内にある店をぐるっと見て回った。すると殆どの店が串に刺した肉と焼き魚だけしか置いていない。聞いてみると、ご飯物はなくこれだけだと言われた。ところが端にある店では麺類を食べている人がいた。すぐその店に入り、センレック!と注文する。ジャーに入った水と皿に盛られた葉っぱを持ってきてくれた。程なくしてセンレックもやってきた。テーブルに置かれた調味料で味付けし、少し葉っぱも入れた。
お腹はおきたが、奥のテーブルで食べていた炒飯も美味しそうだった。


4.ベトナム行きの国際バスは天井に荷物がいっぱい

サワンナケートの地図を見ると、バスターミナルのすぐ隣が市場になっていた。守衛のいる門から出て、店の並ぶ通りを少し歩くと市場の入り口があった。駐車場の奥に大きな市場の建物がある。ちょっと伝統的な雰囲気を醸し出しているようだ。中に入ると極端に狭い通路が縦横に走っていて、商品がぎっしりと積まれている。衣料品が殆どだ。裏側から外に出ると、露店になった生鮮市場のテントがぎっしり並んでいる。特に野菜を売っている店が多く、地面に座り込んで売る人もいる。
しばらく辺りをぶらぶら歩く。
市場を出て信号のある交差点まで戻り、車が走っている道路を南へ少し歩いてみた。地図によれば、サワンナケートの市街地はここから南側へ、メコン川に沿った一帯だ。中心地までは数キロはあるようだ。荷物がなければ歩きたいのだが。この通りもずっと商店街になっていて、小さな食堂やら小売店に寺院等がある。ゲストハウスも何軒か案内が出ていた。

薄暗くなってきたのでバスターミナルへ戻った。22時まで、まだまだ時間がある。

待合所にはコンビニらしき売店があった。中に入り、パンとクッキー、豆乳のパックを買った。それと出口にあったアイスも買った。暇で時間を持て余す。ひたすらベトナムのガイドブックを読みながら過ごした。

20時頃になると、VIPスリーピングカーのビエンチャン行きがやってきた。ここが始発のようで、長く停車して客を乗せていた。この種の夜行便は人気が高いのか、ほぼ満車状態で出発して行った。
の後すぐ、私の乗るダナン行きのバスも到着したのだが、鍵をかけてしまって、すぐには乗せてくれない。バスと言っても何だかトラックのようだ。天井が落ちてしまいそうな位の荷物を載せてある。しかも客席は前の方に少しだけで、殆ど荷物を運搬するためのトラック状態だ。

そして乗ってからも、またびっくりした。座席は前から5列もあるだろうか。車内の2/3以上は荷物がぎっしり積まれていた。座っても足を中に収めるのがやっとだった。勿論リクライニングなどできない。かなり窮屈だ。LCCの座席なんてこれと比べればVIPクラスに思える。私は前から2列目の通路側。隣は若い男の子だ。女性もおばさんが4名程いた。迷彩服のアメリカ軍人らしき人が白人女性と一緒に乗ってきた。
そうだ、この人達にしよう、と思った。休憩所でバスを降りたり、イミグレーション等でメンバーを見失わないよう、誰かを目印に決めておくのだ。背も高いし迷彩服はよく目立つ。

やっと動き出した。随分待ったが、乗っている時間もまた長い。最初から補助席が通路に置かれた。プラスティック製の小さい風呂椅子のような補助席だ。
途中の停留所から乗ってくる人もいた。もちろん補助席。昼間ならともかく夜行バスでこれだと眠る事もできないだろう。それでも何の違和感も無く普通に座っているのが不思議だ。


5.国境には湿っぽい布団を敷きつめた仮眠所があった

ハッとした。何気なくこのバスに乗っているけれど。パクセーで2泊、サワンナケートで1泊位の日程で考えていた。実はベトナムの滞在期間が問題なのだ。指を折って何度も数えてみた。すると、明日の入国だとぎりぎりセーフだ。このバスが0時以降に国境を通り過ぎたら大丈夫だった。何度も何度も時計に目がいってしまう。それにしても危なかった。バスに乗るまで、全然気にしていなかった。若し滞在が15日を過ぎるようだと、カンボジアかタイかラオスにでも一旦出なければいけない。もうシンガポール行きのチケットは購入済みだ。

バスは穴ぼこだらけの道をブレーキを踏み、ハンドルを切り、巧みに穴ぼこを避けながら運転している。ビエンチャンからパクセーへはこんな大きな穴ぼこは無かったが、さすがに幹線道路との違いがはっきりしている。バイクだと必ず転倒するだろう程の穴ぼこが延々と続いている。
運転席の上にはTVがあった。町はずれに差しかかると、乗務員の一人が網棚のDVDプレーヤーをセットした。すると途端にTVからベトナムの歌謡曲が大きな音で流れてきた。もう温泉場の雰囲気だ。
国境まではかなりの時間がかかる。何枚ものDVDを見る事になった。
バスのダッシュボードには神様が祀られている。しかも点滅するライトまで付いていて、線香と花も祀られていた。何とも信仰心の深い国民だ。
うとうとしていると、バスが停まりトイレ休憩になった。バスを降りると少しづつ間隔を置いて散らばった。昼間と違ってそう遠くへは行かない。バスから数メートルしか離れていない場所だ。女性も同じだが、もう少しだけ離れていたみたいだ。みんな気にしていない。ここではこれが当り前なのだろう。
バスのヘッドライト以外に何の明りもないラオスの山の中、目の前には満天の星空が広がっていた。こんなにたくさんの星を見るのは久しぶりだ。吸い込まれて行きそうな美しさだった。
バスは出発し、やっと0時を過ぎた。まだしばらく国境には着きそうもない。

何時になったのだろう、突然バスが小さな村で止まった。私はこの後の流れについては、一切聞いてもいないし全く知らなかった。どうも、どこか目的地に着いたようだ。トイレ休憩の雰囲気ではなかった。
外は寒かった。もうかなり高い山の上にいるみたいだ。近くに赤いバスも止まっている。
そして一部の人達が石段を上って行った。半数以上は少し行った所にある食堂のような店に入った。例の迷彩服が上に行くのは見えたが、私は遅れをとってしまい、少し後で食堂の方に入った。何をどうすればいいか全く分からない。
中に入った人はラーメンらしき物を注文していた。このバスより先に着いた乗客達は、もう食べ終えて少しづつどこかへ消えて行った。私はどうしていいのか分からず、イスに座って様子を窺った。しばらくして注文していた人達のラーメンが運ばれてきた。おばさんがこちらを向いたので、手でこれと同じ物と伝える。おばさんは頷いた。出てきた物はやはりラーメンだった。それもスープや具は手作りのようだが麺は思いっきりインスタント麺だ。
私が食べている途中からメンバーが徐々に少なくなっていった。慌てて辺りを見渡し同じ乗客の顔をさがす。それにしてもどこへ行ってしまっただろう。バスに戻ったのだろうか。
食べ終えてお金を払うと、おばさんが「皆2階へ行ったからあなたも行ったら」、と教えてくれた。その時初めて、国境は夜開いていないと気付いた。峠にあるイミグレーションは夜間は閉まるのだ。何だ、そうだったのか。どうも空港のような錯覚をしていた。若しも昨夜の内に到着していても国境越えは朝になるのだった。

2階へ上ろうとすると、階段に娘がいてお金を徴収した。2階はだだっ広い所に布団が敷き詰められ、所々蚊帳が吊ってあった。もうたくさんの人が寝ていた。どこにしようか迷っていると、娘がこっちへと隣の大部屋に案内してくれた。そこにはバスのメンバーも何人かいてチョッと安心した。湿っぽい布団の中に服を着たままもぐり込んだ。



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パクセーから南へ向かうバスがたくさん出発するターミナル。サワンナケートへもここから出発した。

南バスターミナルと市場。ラオスの深い山並みに囲まれている。赤土のデコボコ道だ。

南バスターミナルと市場。広い敷地の周りには大・小たくさんのバスが並んでいる。

パクセーからサワンナケートまでの車窓風景。ずっと赤土の大地が続く。

ガイヤーンを売り歩く女性。大きなバス停ではバスが到着するのを待っているようだ。

突然何もない所にバスが停まった。みんながぞろぞろと歩いて雑木林へ消えて行った。何と、トイレ休憩だったのだ。真っ先に行ったのが車掌らしき女性だ。

ここはバス停なのか、バスが停まると前の家から荷物を持った女性がゆっくり近づいてきた。

サワンナケートのバスターミナル。この窓口でフエまでの切符を買った。

タイ行きの便は頻繁に出ているが、南北を結ぶバスはこのターミナルには全く入って来ない。

バスターミナルの出入り口。2か所ある小さい方。紐が張られて、係員が通行をチェックしている。

サワンナケートのバスターミナル付近。左側が市街地方面。右側には市場やバスターミナルがある。

サワンナケートのバスターミナル。待合所の左側に売店とその前に出札所がある。ここからタイ行きのバスも出ていた。