メ コ ン の 流 れ と と も に     22
極上のヌックマムを求めて
ベトナム 7   2月 6日 (月)
前へ1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14次へ

1.極上のヌックマムを求めて

朝食のため2階へ下りた。広いレストランにはテーブルがたくさん並んでいる。客は数組しかいない。メニュー表を持って女の子がやってきた。チケットを渡し注文をした。周りに植え込まれた植物、窓から入ってくるそよ風、辺りはとても南国らしい雰囲気を演出している。そして、甘く情熱的な歌声が流れていた。♪♪ Neunhu ngay do ta khong gap nhau thi chac nay da khong usau・・・♪♪ 何てゆったりとした素晴らしい時間なんだろう。その甘美な歌声の中に引き込まれていく。
近くの席までコーヒーを運んできた女の子に、歌手の名前を聞くと、何とか言った。すぐペンを出して紙を取ると 『Le Quyen』 と書いてくれた。


大通りへ出てバスを待つ。すぐ赤いバスはやってきた。12,000ドンを払って、『スイティエン』の辺りと言っておいた。全速で走っていたバスはムイネーの海岸通りに入ると少しスピードを落とした。
車掌が合図してバスを止めてくれ、「ここだから降りるように」、と言った。そして向こうを指さして入り口を教えてくれた。昨日のシンカフェよりはかなり先の方へ進んでいた。

スイティエンの入り口にある小さな橋を確認しておいて、通りを少し歩いて行くと、近くにはヌックマムの店がいっぱい並んでいた。『ヌックマム通り』、とはこの辺りだったのか。
買うのは帰る時だけど、しばらくヌックマムのボトルが並んだ店を見ながら歩いてみた。

実は、スイティエンの入り口近くから、あの独特の匂いが漂っていたのだ。そして『PHUONG LOAN』の店の辺りまで来ると、向かい側の奥に甕がいっぱい並んでいるのが見えた。店の作業場と塀の間の通路、砂の道を歩いて甕の方へ行ってみる。入り口は開いているものの、金網の柵がある。奥には何百もの甕がびっしりと並べられていた。その中でノンラー(編み笠)を被った女性が黙々と一人で汲み出しの作業をしていた。甕の蓋も水色のノンラーのような形をしている。

ヌックマム造りには新鮮なカー・コム(カタクチイワシ)と魚に合った塩加減がとても重要だ。
先ず、カー・コムに塩を加えて数か月熟成する。そして自然にできた上澄み液(ヌック・マム・ニー)を、甕から全部汲みあげて、再び元の甕に戻す。こんな作業を一日6回、2日間繰り返す。これをヌック・マム・コットと言い、魚の旨み成分が凝縮された、コハク色の透明な液体となるのだ。

あの女性はまさにこの汲みだし作業をやっている最中だ。今はのんびりと作業をしているが、カー・コムの水揚げが多い8月、9月は朝から晩まで大忙しになるみたいだ。
この辺りの乾燥した気候と、南シナ海に面した魚の豊富な漁場とが、上質なヌックマムを造り上げてきた所以なのだろう。
どの醸造所もこの赤い砂漠の近くに甕を置いてあるみたいだ。


『PHUONG LOAN』の店頭では男性がボトル詰めの作業中だ。水色の大きなタンクの下には蛇口が付いている。地面に座り込んで1リットル程のPETボトルに小分けしていた。
この店は何度もTVで見た。と言うか、なぜかここしか出てこない。そんなに有名店なのだろうか。主人は職人気質で、自分の目の届く範囲にしか出荷しないのだとか。大きなボトルや箱に入った物までいろんな種類がある。みやげやギフトの需要も多いのだろう。それに日本の醤油以上に消費量が多そうだ。ベトナム料理はヌックマム抜きでは語れない。
同じファンティエットでも、市街地に近い方には大規模な工場が何カ所もあり、一方でこのムイネーは、昔ながらの製法を受け継ぐ小規模な店が並ぶ。各店では微妙に味も違っているようだ。匠の技の世界が存在する。
太った魚とやせた魚とでは加える塩の量が違う、これを間違えるとしょっぱくなってしまうのだそうだ。
《とよた真帆のアジアグルメナビ》でも、この『PHUONG LOAN』の取材だったが、なぜかどの番組もレストランは決まって『カイバン』になっている。
そしてここには一番搾りと言う極上なヌックマムがあるのだ。
あちこちヌックマムの店を見て歩いたが、今は買えない。この通りを後にし、スイティエンの入り口へ戻った。


2.スイティエン(妖精の渓流)のトレッキング

入り口は小さな橋(ラン橋)のたもとにある。《SuoiTien FairyStream》と書かれた目印となる看板があり、ちょっとした説明もついている。橋の下には赤く濁った小川が流れていた。これを見れば誰も入り口を間違う事はないだろう。
狭い道を川の方へ降りて行くと、二人の少年が前に来て案内しようとする。この冒険心を邪魔されては大変だ。何度も断ったら途中からついて来なくなった。
靴を脱いで赤い水に入ってみた。思った以上に冷たい。水深はほんの10cm位、ちょうど踝のあたりまでの深さだ。裸足で川に入るのなんて何年ぶりだろう。
水は赤く濁っているが、赤い砂が溶け込んでいるだけで汚れている訳ではない。暑い日差しの中、冷たい水が何とも心地よい。
すぐ前を白人の男女が、靴を手に持って歩いて行く。
くねくねとした川の流れに沿って私も歩いて行く。ずっと同じ深さのままだ。踏みしめる砂の感触が足から伝わってくる。
途中に、崖の上から砂が崩れ落ちたような場所があった。川から離れ、裸足のままで砂に足をとられながら上へと登る。何人かのグループも同じように登って、上に辿りついていた。崖の上は一面の赤い砂漠だった。日差しは強く、砂も熱い。ベトナムにやって来て、こんな砂漠の中にいるのが不思議だった。

しばらくこの絶景を眺め、再び川へ下りて行った。ツアー客か家族旅行なのか、何人かのグループが少しづつ間隔をおいてやって来る。この先の、どこまで続いているのか私は知らないで歩いている。
川幅が少し狭くなった場所に来ると、20cm位の深さになったりもする。池のようになった深い所もあり、そこでは膝まで浸かってしまった。
やっとこの川の源に着いた。落差数メートルの滝になっていた。ここでトレッキングは一旦、終了となる。ただ途中で引き返す人達も多いようで、ここでは白人二人しか見かけなかった。
ここまでやって来ると冒険心に火がついてしまう。インディー・ジョーンズにでもなった気分だ。滝の近くにある崖を一気に登った。この上は砂漠ではなくトゲのついた灌木やサボテンが生えていた。靴を履いてあちこち歩いて行くと、木が少なくなりまた赤い砂漠に出た。砂漠はムイネー海岸の椰子林の辺りまで続いている。そしてぐるっと見渡すと、辺り一面の景色はどこまでも遠く赤い。この赤い砂、手ですくってみた。ほんとに細かな砂の粒だ。サラサラと指の隙間から落ちていく。

ここからでも椰子の通りまで歩いて行けそうに思ったが、川を歩く方が楽しいので、崖を下りて水の所まで戻った。
この川の東側に2、3カ所、カフェがあった。川の傍に案内が出ていて、階段を上った所に、みやげ物も売っている店があったようだ。
バス通りの小さな橋が見えて、スイティエンのトレッキングは終わった。



3.椰子の村とムイネー海岸

椰子林の続くこのグエンディンチェウ通りから、草むらの中を歩いて海岸へ出てみた。
そこには、白砂の海岸とそそり立つ椰子の木が延々と続いていた。海には漁をする小さな舟が何艘か出ている。この辺りはリゾートホテルの多いエリアの外れになっているから、砂浜で遊ぶ人は殆どいない。時折水上バイクが轟音を響かせて通り過ぎて行ったり、白人のカップルが歩いていたりする位だ。
海岸には竹で編んだ丸い舟や、エビとかカニの仕掛けのような器具が無造作に置かれていた。この丸い舟、ベトナムでは時々見かけるが初めて樹脂製のを見た。樹脂でコーティングしてあるのかも知れないが意外だった。
漁船から海岸まで、魚の運搬に使われているようなのだが、こんな形では操縦が難しそうだ。水の浸入を防ぐため竹の間には牛の糞を塗りつけてある、とTV番組で見た。カー・コム漁の最盛期には忙しそうに船の間を往復していた。

海岸に沿って西の方へ歩いてみた。椰子の林の中にはバンガロー風の建物が並ぶ。ここムイネーのリゾートにはニャチャンなどと違って高層のホテル群はない。通りからも直接見えないように工夫されていたりもする。訪れた観光客は、全くの大自然の景観の中に身を置く事ができるのだ。
それにしてもこの海へせり出すように生えた椰子の木、大きな椰子の実がいっぱい生っていてちょっと危険だ。頭を直撃されたら堪らない。

砂浜の端にあるコンクリートブロックに腰掛けて、しばらく波の音を聞いていた。日差しは強いが、木陰を通り抜ける風はとても爽やかだ。

時計を見ると12時になっていた。通りへ戻り、シン・カフェの方へ向かって歩く。あの辺りにはカフェや食堂があった。
2km位歩いて、シン・カフェの前にあるレストランと書かれた店に入った。ニャチャンからのバスの中で騒がしかった家族と白人女性のグループがいた。
フォー・ボーとアイスミルクコーヒーを注文した。グラスいっぱいの氷に、中間までコーヒーが入っていた。ベトナムのコーヒーは濃いし甘いからすぐちょうど良くなるのだろう。
しばらくして出てきたフォーはチョッと薄味。なかなかこの味に慣れてこない。タイのように、調味料もたくさん置かれていない。ヌックマムを加えて食べた。
湿気が強く蒸し暑い日本の夏と比べると、日陰は涼しく、まるでハワイにでもいるようだ。


4.ムイネー村まで行ってみた

バスでムイネー村へ、そしてムイネー市場へも行く事にした。
赤いバスに乗り、料金はいくらか分からないので、12,000ドン払って、「ムイネー市場近くで」、と言っておいた。椰子の林が切れて海がすぐ近くに見えるようになった。ムイネー村は漁村の筈だ。近くの海には大小の舟がいっぱいだ。
家並みが続くようになった所で、「ここで降りるように、市場はあっちだ」、と指さした。確かに雰囲気がしている。ここまで来ると、ムイネーと言ってもリゾートなんかの欠片もない。ただの漁村だ。老人達が日陰に座っている。おじさん方は仲間と賭け事でもやっているようだ。
この市場の辺りが村の中心のようで、店がたくさんあり人通りも多い。

”CHO MUI NE” この時間の市場内は閑散としていた。
売り場は片づけられ商品は殆どない。所々でおばさんが野菜を並べて商売をしている程度だ。それにしても辺りのゴミは凄い。入り口付近から構内まで、ゴミだらけだ。
今度は外に出て町を歩いてみた。このバス通りは海面よりかなり高い位置にあり、ここから見ると、たくさんの漁船は凄い迫力だ。
ツアーバスもここに立ち寄るみたいで、観光客が一斉にカメラを海側に向けていた。

ヌックマム通りへ戻ろうとバス停をさがした。海岸通りと違ってバス停の間隔が狭くすぐ見つかった。
バス停に立っていると、バイクタクシーのおじさんが声をかけてきた。「スイティエンの辺りまでいくら?」と聞くと「トゥエンティ」、と言う。言い値じゃ面白くないから「15でどうか?」と言ったら、ダメだと言った。私にはどちらでもいいような金額なのだが、このおじさんはどうしても譲らない。そして向こうへ歩いて行ったかと思うと、年配のおじさんを連れて来て、「この人は15で行く」、と言った。プライドなのか、何か決められた基準でもあるのだろうか。
それでも自分がダメな時には他の人に仕事を譲ると言う、この精神は素晴らしい。結局、連れてきた15のおじさんに乗せてもらう事にした。

街を抜けて下り坂を進んでいると、急におじさんがバイクを止め、「このヘルメットを被るよう」、と渡してきた。随分慌てている様子だ。そして、その道路の先に見えたのは、警察の取り締まりだった。2台のバイクが捕まり道端に止められていた。間一髪の判断だったようだ。

無事検問を通過し、椰子の下を軽快に走る。ヌックマム通りの『PHUONG LOAN』の前で降ろしてもらった。店頭に立つと店主が出てきた。何度もTVで見た顔だ。500mlより小さいサイズがないかと聞くと、ないと言われた。仕方なく1本買った。ここまでやって来て1本買う人も珍しいのだろう。ホントに1本?って顔だった。
実はLCCの預け入れ荷物は、エアアジアもジェットスターも15kgにしていたのだ。それで荷物の重量が増えないよう注意していた。

近くのバス停から、今度はバスに乗った。車掌に12,000ドン払うと1,000ドン戻してくれた。何とも分かり難いバス料金だ。
バスは椰子に囲まれ、緩やかに弧を描くような道を進む。シンカフェの付近から海岸沿いには、リゾート・ホテルが何キロもに渡って続いている。そしてその西の端には、みやげ物などの店がたくさん集まった場所があり、白人客で賑わっていた。
更にその向こうは椰子林が切れ断崖になっていて、道端にテーブルとイスが延々と並んだ全くのオープンカフェもある。最高に楽しめる夕陽のスポットではないだろうか。


5.ファンティエットへ戻りチェーの店へ

ファンティエットの市街地に入り、降りる場所をさがしていたら鉄塔が見えた。急いで合図をし降ろしてもらう。ここがホテルに一番近いバス停だ。
チャンフンダオ通りとの交差点の方へ少し歩くと、昨日のチェーの店の斜め前に、もう一軒チェーの店がある。今日はこの店『CHE HUE』に入った。メニューには、HEN XAO 10,000d、BANH NAM 6,000d、BANH LOC 6,000d、CHE 8,000d、と書かれている。

チェーの具材を適当に指さした。白玉団子に芋に豆類だ。たっぷりのココナッツミルクがかかっているチェーが出てきた。冷たくて何とも美味しい。
交差点を左へ曲がり、COOPのショッピングセンターへ入る。2階には電気製品、日本のSANYO、TOSHIBA、MITSUBISHI等の冷蔵庫の大きな段ボール箱が積み上げられていた。3階のフードコートへ行った。何か変だ。おかずの並んだショーケースの前で、注文されたご飯を作っているのだが、客はみんなレシートと交換しているのだ。
並んでいる人に聞いてみると、向こうのレジで注文し支払いを済ませるらしい。そしてレシートと交換でご飯を貰うと言う事だ。
少し離れたレジでメニューを見ると、これが全部ベトナム語で書いてあり、全く分からない。今まで全て指さしで注文してたからびっくりだ。どう考えても無理だった。

フードコートの中はかなりのテーブルが埋まっているようだが、チョッと薄暗い感じだ。奥にあるトイレへ行くと、入り口で500ドンだと言われた。
一旦外に出た。駐車場入り口のコンクリートの塀に座り、辺りを眺めていると18時の時報が鳴った。
隣におじさんがやって来て、何やらスティロールに入ったお弁当らしき物を食べ始めた。すぐ後ろのファストフードと看板が出ている所で買ったようだ。COOPの店の入り口に近い場所にある店だ。
ちょっと覗いてみると、おかずがたくさん並んでいて、パンに挟んだりご飯にかけたりしてくれるようだ。そしてカットフルーツがパックに入って並べてあった。ザボン、スイカ、ドラゴンフルーツ、・・・。スイカが美味しそうだったので買ってみた。同じ場所まで戻り腰掛けて食べた。そう冷えてはいないものの甘くて美味しい。
近くに食堂がない訳ではないが、清潔そうな店が見当たらない。
ホテルの方へ戻っていると、昨日行ったチェーの店の近くにベーカリーがあった。中に入ると、右側はバイン・ミー・ティットのコーナーになっていて、具材のポットがいっぱい並んでいた。正面はケーキ類だが、暗い色合いのケーキばかりだ。左側は広いパン売り場になっていた。バイン・ミーの方は若い女性が数人いて、清潔そうだったので、具材を選んで注文する。フランスパンは半分くらいのサイズしかなく、2個作ってもらった。


部屋に帰り、冷蔵庫からセブンナップを出してバイン・ミー・ティットを食べた。
夜遅くの窓からは、人通りもなく、バイクさえも殆ど走っていない街並みが見える。蛍光ラインを付けた人が何人かで道路の掃除をしていた。騒がしかったこの辺りも、12時を過ぎる頃には静かな町となる。




                       Top    前へ   次へ




ホテルの6階窓から見たファンティエットの街。このホテルでは階はヨーロッパ式のGから始まるので、実質7階になる。遠くには海も見える。

ヌックマムの甕がたくさん並んでいる中で、女性が汲み取りの作業をしていた。

赤い砂漠と海岸との間には、このような醸造用の甕がたくさん並んでいる。
ヌックマム(NUOC MAM)の店
PHUONG LOAN、 ANH MINH、 Kim Ngan、 HONG THUY、 SAU PHONG、 TUONG VAN、XUAN ANH、 DIEM LIEN、 HUYEN LINH
 
ムイネーのヌックマム通りにはこんな店があった。

スイティエンのトレッキングは、この赤い川を上流へ向って歩いて行く。

赤い絶壁と緑の森が対照的だ。この辺り一帯は赤い土で覆われている。

ここムイネーは椰子の木が多く≪椰子の村≫と呼ばれている。

ムイネー村は漁業が盛んだ。カーコムもここで水揚げされる。

赤いバスとこの青いバスが走っている。この青バスの方が客が多いようだった。
ベトナム料理には欠かす事のできないヌックマム。品質はNで表示される。これはうまみ成分と言われる窒素成分(ニトロゲン)の含有量で、通常の製法では40位が限度とされている。煮詰めるなどして作った70とかの製品もあるが、風味や味が劣る。一番搾りから、塩水を加え何度も搾った物まで様々のようだ。最高品質の一番搾りは、塩とカーコム(片口いわし)の旨みだけでできたもの。生産地はフーコック島とファンティエットが有名だ。 NUOC=液体、MAM=発酵させた魚介類。

ムイネーリゾートの中を走るグエンディンチェウ通り。砂漠台地の向こうには広いバイパス道路があるので通行量は少ない。

『カイ・バン』はムイネーリゾートの入り口にある有名なレストランだ。海沿いの崖の上に建っている。

ファンティエットのチャンフンダオ通りにある≪COOP MART≫のショッピングセンター。